若林健太

若林けんたの主張

ご挨拶

政策評価についての問題点とその解決方法

利用者から考える政策評価の2つの機能

 政策評価は一体誰のために創られるものなのでしょか。先進県である三重県において、政策評価という考えを採用し事務事業評価を導入した際には、生活者起点という知事の示す理念を成果として実現していく、成果重視の行政へ切り替えていくための手法とされていました。従来の行政組織では、官僚制度の弊害として様々な制度疲労が指摘されていました。三重県において事務事業評価システムを導入する前に行った部長次長級研修において、自らの自己分析をした結果でもこの事が明らかになっています。

1:基本理念
政策理念が不明確で、総合検討や全庁的な議論が不足している。
総花的になり計画倒れで一貫性に欠ける。
2:組織機構
縦割り組織が細分化され境界領域が不明確。
その上に総合政策調整機能が弱体。
階層・役職が多く責任が不明確になりがち。
部際間の調整スピードが遅く新しい横断的な課題に対応しにくい。
3:組織風土
議論を避け、事なかれ主義で厳しさに欠ける。
前に出たがらず、長いものに巻かれろ的で仲良しクラブのなあなあ主義。
自発性に欠け必要以上の仕事はしない。
横の連携に欠け、管理部門中心主義。
予算が重視されるが、成果としての決算が軽視されている。
4:人的資源
評論家が多く、理論は良いが実施が伴わない。人材育成が不十分。年功序列で、若い人の意欲減退。自己啓発の不足。外部人材の活用が不足している。

 これらの指摘は、アウトカムとしての業績評価を数値によってしっかりと評価するシステムをもっていなかったために起こったものであると把握をし、民間会社で採用している経営管理手法を行政に導入するべく検討に入る事となりました。もとより、行政組織と民間会社では、法の執行者と顧客本位、秩序維持とサービス、権威主義と効率重視、平等主義と重点志向、手続重視と成果重視、独占と競争是認など視点の異なるところは多いわけですが、組織を経営するという点においては同じ共通項も多く、素直に謙虚に組織経営として優れたものを取り入れていこうというようになりました。この基調になった考えは、当時の北川三重県知事が衆議院議員時代に読んだ『行政革命』(David Osborne and Ted Gaebler)にあるとされ、三重県庁の幹部職員の皆さんもこれを読み自らを検証し、一人ひとりが北京の蝶々となっていったそうです。こうした経緯を踏みながら、アウトカム指標に基く事務事業の評価を当初から本庁全ての事業を対象に行う事になりました。更に導入2年目になると本庁ばかりでなく地域機関(出先機関)にも拡大していく事となります。さわやか運動から始まった流れは、Plan Do Seeサイクルを導入しようとする当初の思いが組織に浸透してくるようになります。この頃、県の総合計画である『三重のくにづくり宣言』が公表されました。これにより行政使命、政策、施策、事務事業という政策体系が出来上がることとなり、事務事業の位置づけ、目的と手段の連鎖関係が体系的に整備され、事務事業評価システムとのリンクが目に見えてくるようになります。三重の国づくり宣言では、283の数値目標が掲げられました。その数字は必ずしも事務事業評価システムのアウトカム指標と全て整合しているわけではありませんでしたが、整合不整合の精査は後の課題として残しながら数値目標を公表した意義は大きかったとされます。  導入3年目になって、こうした改革が取組まれ進められていく中で、三重県ではカラ出張問題という大きな事件が発覚する事になります。従来型官僚組織の膿が出るに至って、世論の風当たりもつよくなる中、それを追い風として、事務事業評価の公表をする事としました。公表によって、事務事業評価が衆目の中にさらされる事となる訳ですから、こうした取組にいろいろな意見をもっている職員一人ひとりにとっても安閑としていられなくなります。全庁的に職員のやる気を引き出し前向きにする事ができたようです。また、公表することで、首長、議員、上司、民間業者、住民など、政策形成に何らかの関わりのある全ての人にとって、筋の通らない事をお互いに押し付けにくくなり議論もオープンな場で行われるようになりました。 3年が経過したところで、これらの改革の総仕上げとして、行政システム改革を行いました。生活者起点という理念のもと、「分権・自立」「公開・参画」「簡素・効率」の3つのキーワードに沿い、21の具体的な項目についてそのシステムを改革しようとするものでした。

この項目は、「分権・自立」として

  • 地方分権の推進
  • 市町村への権限委譲
  • 県民局の充実強化・組織の総合化
  • 総務部の権限縮小
  • 民間の自立自助
  • 本庁組織の検討
  • 職員の育成

また、「公開・参画」として

  • 情報公開の推進
  • 広報・広聴機能の充実
  • 県民へのサービスの内容等の公表

「簡素・効率」として

  • 事務事業の見直し
  • 民営化と外部委託
  • 事務事業評価システムの定着
  • 中長期的な財政見通しの公表
  • 補助金及び委託費の一部競争入札
  • 公共工事のコスト削減
  • 箱もの建設の抑制
  • 外郭団体の整理縮小
  • 定員・給与の適正化
  • 職種区分の見直し
  • 発生主義会計の導入

 三重県は、参加を軸とするさわやか運動から出発し、市場志向の軸を加えつつ行政システム改革へ進化させ、New Public Managementの考えを取り入れていくこととなりました。その中核は、事務事業評価システムの導入であったと思います。
 先進県である三重県での事務事業評価システムの導入及び行政システム改革の系譜を見ていくと、やはり公表する前と後に分けて、事務事業評価の利用者が変わってきていることに気がつきます。当初は、あくまでも行政組織内部の評価のために作成された政策評価が、外部に公表されることで、市民や政策専門家によって利用されるようになっていったと言えます。前者は組織内部の問題でありある種の専門家が利用する訳ですから、組織内部の共通する用語等でも通用しますが、公表後は、政策評価を分析する専門家もいますが、基本的には一般の市民の皆さんが利用する事となります。そうなると、行政組織内部のみ理解される共通語等による表現は排除し、極力、多くの市民が理解しやすいように表現されていかなくてはなりません。誰のための政策評価であるのか。それは、行政組織の人達、政策評価を分析する専門家も勿論でありますが、究極には一般の国民、市民であります。一般の国民や市民が、もし理解できないような内容であるとすれば、それは公表する目的そのものに合致しない事となり公表する意味さえ疑わしいものとされてしまいます。

政策評価が持つ問題点について

 以上のような考察を踏まえて、各地方自治体が公表している政策評価について改めてみてみると、果たして、一般の国民、市民がみて容易に理解できるようになっているでしょうか。多くの場合、事務事業評価をする中で用いた事務事業評価表をそのまま添付しており、細かい評価内容が記載されてはいますが、興味本位で国民がみて理解できるものとは、とても思えないような現状であると思います。当初は、旧態依然の行政組織へ市場志向の軸を加えつつ行政システム改革へ進化させ、 New Public Managementの考えを導入するために取組んだ事務事業評価システムであり、この段階では、謂わば行政組織内部の管理のためであるから関係者が理解できるだけで十分にその効果は発揮されていました。しかし、事務事業評価を公表するという事は、国民、市民に対する行政組織としてのアカウンタビリティを自ら果たすために行うものであり、対象とされる国民、市民に理解されるものでなくては意味をなさないものとなります。組織内部で管理するために作成された事務事業評価は詳細に規準となる指標を用いて行われるべきでありますが、公表する際には、一覧性、或いは明瞭性をむしろ重視して、ある程度要約して分りやすくしていく必要があると思います。そのような工夫が現在公表されている都道府県の政策評価には足りないと思い、よって、現状の状態では、各自治体にとってのアカウンタビリティが果たされていないと思います。

今後の展望について

 私は、公認会計士として監査法人の業務に携わる中で多くの上場会社のディスクロージャーに関わってきました。また、株式公開しようとする上場準備会社に行き、内部統制システムが確立されておらず、およそ組織としての体をなさずオーナーの独壇場となっている会社を整備する仕事をしてきました。上場準備会社では、我々が訪問した当初は、往々にして創業者社長の個性によって事業を大きくし会社もその鶴の一声、思い付きによって左右されるようなところが多くあります。そうした会社に、組織管理の原理を教え、原価管理から予算統制を導入し、組織規程や稟議を教えます。月次の決算から連結グループ管理。常に予算と実績を分析し、3年間の中期計画に沿って運営するようにしていく訳です。こうした民間会社の組織管理を指導してきた経験から、各地方自治体がNew Public Managementの考えを導入し、市場志向の軸を加えながら行政システム改革へ取組む姿に感じるところが多くあります。私どもの株式公開指導において、株主を市場で募集するに足る内部の管理体制の整った会社が、株式公開へむけて最後のハードルとして苦労するのは、ディスクロージャーの考えを如何に会社に理解をさせるかにあります。そもそも、会社情報を外部へ公開した事がない訳ですから、一体何処まで、そして、どのような形で公表していいのかが分って頂けません。証券取引法に基き一定の公表ルールはありますが、個別の判断をする際の基準がないため実務上で大変に苦労をします。その際、私たちは投資家の立場に立って考えてください。投資家が株式を投資する際、御社を理解してもらうために必要な情報はなんですか。その見方で検討すれば自ずと判断できますよと言っております。今当に、ディスクロージャー(情報開示)に取り組み始めた自治体の様子は、丁度、我々監査法人が株式公開準備会社へ指導に訪れている際のこうした最終段階にあるように見えます。とすれば、2で指摘した政策評価がもつ問題点への解決も自ずと見えてくるように思います。
 企業会計の世界では、事業計画を予算に落とし、予算決算を月次と年次で把握し分析する事で、業績の評価を数字によって行っています。月次や年次の予算決算及びその分析は、原価管理の細かい数字の積みあげをし実に精緻に、しかも詳細に行っています。しかし、この細かい基礎数字は、そのままでは外に出ることはありません。組織管理とすれば、管理のレベル用途に応じて加工されていきます。現場責任者の把握している数字より、より上位の管理者に行くほど全体の中の位置づけも表現して理解してもらわなくてはならないために概算になっていきます。更に、外部へのディスクロージャーとなると、一般投資家の皆さんが理解してもらうために工夫が必要です。詳細に数字を開示すれば言いという訳ではありません。細かい数字は返って全体像を見えなくしてしまうリスクを孕んでいます。詳細なデータを基礎に、正確に、しかし、一覧性、明瞭性という一般投資家からの要請を踏まえて、ある程度概算で表現をするようにしています。多くの会社では、こうして作成した有価証券報告などの法定書類以外に、IR資料として、更に簡単に概要を把握できるような情報開示をしています。
 各都道府県の政策評価を見ていると、上場会社で行っているディスクロージャー(情報開示)の際のこうした配慮や工夫が、もう一つ足りないのではないかと思っています。公表する目的をより十分に考えると、現在のような事務事業評価表をそのまま出すのではなく、概略版をその間に入れてみるなどの工夫、全般的な総合評価についてのコメント等が必要になると思います。また、現在では、各自治体が独自のフォーマットで情報開示されていますが、利用者側である国民の側に立って考えると、他の自治体との比較可能性を確保するという要請もいずれ出てくると思います。その意味では、今後は、ディスクロージャーのフォーマットの統一、或いはガイドラインの公表等が、検討されていく必要があると思います。


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