若林健太

若林けんたの主張

ご挨拶

地域経済の夜明け

回復基調にある日本経済

 2002年初めから輸出主導によって始った景気回復局面は、国内設備投資に広がりを持ちながら、一部個人消費支出にもおよび本格的な胎動となってきているとされます。今回の景気回復は、好調な米国、中国への輸出をきっかけに回復のスタートを切ることができましたが、バブル崩壊後の所謂、失われた10年の中で各企業がリストラを断行しつつ、薄型テレビにみられるデジタル家電や通信機器、自動車等で積極的な技術革新に努力をした結果が結びついていると思います。まさに日本企業復活の道程に世界が再び評価をし直しています。一時は金融恐慌の一歩手前にまで陥った金融制度も竹中改革の断行により落ち着きを取り戻しました。昨年7月に、福井日銀総裁が長野県に来県された際に、県内の若手経済人との懇談会でも、今の景気回復局面が一時的なものでなく、質的改善を終えた企業が暖めた技術革新による力強い業績の回復を進めており、その流れが純粋に国内産業にも波及し設備投資が拡大しているという認識を話して頂きました。
 一方、昨年後半から、原油、為替の高騰や、米国中国の景気先行き不透明感から、やや弱気な見方も出始めております。11月の政府月例報告や日本銀行金融経済月報でも、「一部に弱い動き」がある事を認め景気の基調判断を下方修正しました。しかしながら、こうした政府や日銀の報告も、中長期には「国内民間需要が着実に増加していることから、景気回復が続くと見込まれる」と判断をしており、引続き回復局面にある事を示しています。言い換えれば、昨年後半からちょっと息をついているが、景気全体の回復基調に変わりは無く本年も引続き回復していくであろうと予測されています。

首都圏経済と地方経済の格差

 今回の景気回復の特徴として、大企業中心の回復であって中小零細企業には実感が沸かないとか、東京等の大都市圏中心であって地方経済は未だ回復には程遠いといった話をよく耳にします。実際、日銀短観(別紙1)にあるように、大企業と中小企業の業況判断には大きな開きがあります。中小企業の中でも、大企業等の回復基調と連関しやすい製造業に比べ、非製造業の厳しさは顕著です。こうした大企業と中小企業の格差は、支店経済であり中小企業が中核をなす地方経済の現状をそのまま表していると言えます。私も、監査法人として長野県内の金融機関や各企業の監査をする中で実感として感じます。家電、精密機械、自動車産業等に関わる製造業を中心に県内企業も多くが急速な業績回復が進んでいますが、一方で、建設業や旅館等の観光業、卸小売業等、伝統的な地場産業において厳しい経営環境は変わりません。そうした伝統的な地場産業の比重が高い地域ほど元気が無いのが現実です。我が長野県内を見渡すと、精密機械産業などが集積する中南信地域に比べ、北信地域は相対的に厳しい状況にあると言われております。

地方経済社会における構造変革の必要

 こうした地域経済の現状を紐解くのに、ユビキタス社会と地方分権という2つの視点を提示します。IT革命と言われ情報通信分野に留まらず我々の生活空間のあらゆる場面へコンピューターが入り込み役割を担うユビキタス社会になり、今までの社会構造が大きく変わりつつあります。情報の共有化が驚くスピードで進むと共に、社会のあらゆる階層で情報開示が進みオープンな競争環境が進みました。この事は、流通革命を更に劇的に推し進め、消費者行動を変えさせ、更には、行政の事業発注の在り方をも変えていこうとしています。地域社会の主力であった既存産業が従来の商法から脱却し、新しいビジネスモデルを求めざるを得なくなっている背景は、産業革命以来といわれるそうした社会構造の革命にあります。加えて、平成11年の地方分権一括法制定にはじまる地方分権時代の到来と共に進む、国、地方合わせての財政構造改革の影響は、否応なく地方経済を直撃します。既に立ち行かなくなっている地方交付税特別会計の改革や、国庫補助負担金削減の8割を税源移譲する三位一体改革の内容は、ただでさえ苦しい地方自治体の財政改革をより厳しく加速させる事は自明です。行政が主導する総需要政策による景気浮揚策に期待をする事が出来なくなった現状を厳しく認識し、自ら新しいビジネスモデルを創り上げて行かなくては生き残れないという現実が地域社会に突きつけられています。

地方経済(長野県経済)の夜明けに向けて

 地方経済社会のおかれる厳しい環境を概観しましたが、今後の見通しについて、私は決して悲観ばかりしていません。地方分権社会の到来は、厳しい財政事情の中で自己決定を迫られるという意味では大変ではありますが、一方、地域を良く知る我々が自らのアイディアを発揮する余地が広がるわけでもあり大いなるチャンスが其処に生まれると理解できます。そもそも地方分権社会を求める声は、豊かな経済社会の実現により自律した市民が現れ、明治維新以来続いている中央集権的な国家体制から、個々の市民の心の豊かさを大切に身近な自治を尊重した国家体制に変えて行こうという考えから興ったものであります。地域の課題は、まず其処に住む自律した市民が身近な地方自治体と共に協働して取組み、国家はそうした地域の自治の行わないものをのみ取組むという補完性の原理にもとづく新しいこの国のかたちが求められています。時代が求める個々の市民の心の豊かさは、無機質な都市空間には無く、地域の温もりある特性が放つ魅力を掘り下げ付加価値へと転化し、地域独自のビジネスモデルを構築する中にこそ生まれる物であると思います。そうした視点に立って、取組むことが新しい可能性を広げます。例えば、長野県原産地呼称管理制度や長野市で取組む産官学連携の取り組み等の地方自治体が取組む事業も、そうした可能性を引き出すきっかけとなるかもしれません。大自然の恵みに抱かれながら首都圏に近い我らが長野県の持つポテンシャルは、例えば、科学技術立国を進める国が研究開発型の産業を創り上げるにあたり十分にその拠点となる可能性を秘めています。また、ユビキタス社会の到来は大きく地方の経済社会構造を変えると共に、情報発信のインフラコストを劇的に低くし、地域に根ざした付加価値の高いビジネスを容易に全国へ売り出す機会を創る可能性も秘めています。監査法人としてお付き合いさせて頂いている企業の中でも、将来の株式公開を目指して、そうした地域に根ざした付加価値を創り上げたり、IT関連のベンチャー企業を起こしたりしている方が長野県内で元気よく動き出しています。要は、我々、地域社会に根ざす事業者が自らの足元をしっかりと見つめながら努力し、新しい地方分権社会のビジネスモデルを発見し育成していく事が今こそ求められています。2005年4月には一連の金融制度改革の総仕上げとしてペイオフ解禁が行われ金融秩序の混乱を懸念する声もあります。しかし、経営の安定性を図る指標である自己資本比率は長野県内の各金融機関とも高く、経営基盤が安定しており、金融秩序の混乱を来す心配はありません。安定した金融秩序の中で、全国でも有数の精密機械産業を中心とした優秀な製造業が業績を回復しつつある事も弾みがつきます。本年の長野県経済が、自分を含めた多くの事業者の努力によって、輝かしく温もりある夜明けを迎える事を誓いたいと思っています。地域経済の夜明け。それはもうすぐ其処にある。そんな気持ちをもってこの論文を閉じさせて頂きます。


ページトップ